産経新聞 書評『何が「いただく」ぢゃ!』
2019.10.17掲載(BY 麻木久仁子)
膝を打つ「食」の楽しみ

 小説家、姫野カオルコさんの食へのこだわりが、めくるめくほどおいしそうな香りを漂わせながら綴(つづ)られるエッセー集。

たとえば「ふきのとう」。

〈大人になったと、芯から実感するのは(私の場合は)こんなときだ。慈姑(くわい)と、ふきのとうを食べたときに、「ああ、うまい!」と、しぼりだすような歓喜の声を出してしまった時。〉

姫野さんのおっしゃる通り、春の楽しみだよね、やはり天ぷらよね、と思いつつ読んでいくと、「ふきのとうのヒメノ式」が登場する。天ぷらよりもヘルシーで、ビールに抜群にあうヒメノ式の食べ方。うーん、その手があったか! まず「蒸す」とは! そして次に…続きは本書をごらんください。

あるいはアジの刺し身。ほんの一工夫なのに、なかなか思いつかない。すだちの使い方が目からうろこなのだが…続きは本書でごらんください。これを知ってしまったらもう、これ以外の食べ方はできないです。

さて姫野さんにも苦手な食べ物がある。ニラやネギなど硫化アリルが含まれているものが食べられないのだそうだ。しかし、ネギなしのソバなんて、どうする? ということでヒメノ式のソバの食べ方はクレソンを一人一杷というか、たっぷり用意して、オリーブオイルでさっと炒め、ソバを猪口(ちょこ)につけるときに一緒に少しずつ食べるというが、肝心なのは炒め方だ。炒めるのもどう「さっと」なのかは…本書で確認してから調理したほうがいいと思います。たぶん、姫野さんが一字一句書いた通りにしないとダメです。

こんな具合においしい食べ方「ヒメノ式」が満載な他、日本酒の見分け方のうんちくや「店検索サイト」への注文など、膝を打つものばかり。かつての幼児向けテレビ番組「ロンパールーム」で飲み物が登場するおやつコーナーの話には、半世紀以上も前の記憶が蘇(よみがえ)った。ああ、確かにそれを見ながら口の中ではとろりと甘い液体の味がしていた。あれは何だったのか…同世代には懐かしい記憶です。

「味わう」というのは不思議な感覚だ。それにしても、こんな風に「食」を楽しむ姫野さんは本当にかっこいい大人だ。よし、私ももっと真剣に食べることを楽しむぞ!(プレジデント社・1500円+税)