よるねこ 集英社文庫 05/6/17発売
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『よるねこ』文庫版あとがき
××小説という分類は、簡単なようでいて難しい。八世紀や九世紀のころとちがい二十一世紀ともなれば 物語 は多くの分野にまたがり、さまざまな要素をとりいれ、構成も複合的になっているから、ひとくちに××小説だと境界線を引けません。 けれど無理にでも分類しないと本屋さんがお店で本を並べるときに困ってしまわれる。そこで文芸出版業界では苦しい五分類をしました。 時代小説。推理小説。恋愛小説。ホラー小説。その他。 この五分類からすると拙著の80%は「その他」なのですが、本書『よるねこ』はホラー小説集です。 ところが、「ホラー小説」と聞いて予想する内容は、人によってずいぶん異なります。店頭で「あとがき」を購入のめやすにされる方も多いので、もうすこし修飾語をつけて分類しますと「ハリウッド映画には向かないホラー小説集」でしょうか。 だれがどんな顔をして、なにが起きてどうなったのか、できごとの核心は読み手の想像力と感受性にゆだねられる物語。これは視覚に訴えることを主とする大作映画にはまるで不向きです。 ですから「奇妙小説」という分類でもかまわない。もしそんな分類名があるのなら。 全部で九話収録されています。九話それぞれ文体を変えました。 各話、雰囲気もテイストも、そして手法もちがいます。単行本にはなかった「通りゃんせ」以外、「小説すばる」に寄せていった ものです。毎回、手を考えるのが、たいへんといえばたいへん、おもしろかったといえばおもしろかった一年でした。 「どうしてこうなったの? この人はなんだったの?」とか「あの人があそこでああしたっていうのは、こうだったってこと?」 とか「あの人は悪者だったの? あんなことしたのはまちがってたの?」とか、 とにかくひとつの意味というか答えというかを提供されないと気がすまないタイプの読み方をされる方が、ごくたまにおられます。 そういうタイプの方にはそういうタイプの方のたのしみかたがあるのでしょうが、しかし本書のような小説集の場合には、答えはすべて読み手本人で決められるほうが……。だって、他人より自分がいちばん怖ろしいと申しますから……。 姫野カオルコ
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