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メディアに掲載された姫野カオルコ作品の書評を紹介(近所の犬/幻冬舎)

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『近所の犬』幻冬舎

 
切なくも可笑しい「私小説」

産経ニュース掲載
(http://www.sankei.com/life/news/141026/lif1410260013-n1.html)
藤田香織(書評家)

 無類の犬好きであるが故に、自分は「大都会で犬猫を飼う条件」を満たしていないと自制し、「借景」ならぬ「借飼(しゃくし)」を専らとしている作者。飼えぬかわりに、出合った犬たちを観察し、好機あらば接近し、飼い主の了解を得て触れ撫(な)でる。本書には、犬好きならずとも、つい頬が緩む、ままならぬ愛の可笑(おか)しみと悦びが綴(つづ)られている。

 今年1月、第150回直木賞を受賞した『昭和の犬』に続く、待望の新刊だが、前作は「自伝的要素の強い小説」であるのに対し、本書はより事実度が大きい「私小説」という位置付けだ。一人称で語られる物語は、エッセーのような気安さと親近感を読者に抱かせる。

 自宅の向かいに建つ某有名企業の社長邸宅で飼われているウェルシュ・コーギー。セントバーナードを真っ白にしたような大型犬にもかかわらず「小雪」と名づけられたピレニアン・マウンテンドッグ。やんちゃで「とんまな顔」をした愛嬌(あいきょう)たっぷりなシベリアン・ハスキー。きちんと目を合わせ「こんにちは」と挨拶をしてくれるラブラドール・レトリバー。散歩や買い物の途中で行き交えばもちろん、たとえ自宅にいようとも、愛すべき犬情報を入手すればすぐに駆けつけ、愛(め)でる愛でる愛でる。しかし、なにぶん「借飼」ゆえに、思う存分愛情を注ぐことは許されない。ようやく会えても、飼い主に抱いている(であろう)以上の愛は向けられない。次第に作者が、報われぬ恋に身を焦がす乙女のように見えてくる。

 会えない時間の妄想。好きな「タイプ」ランキング。どんな仕種(しぐさ)に惹(ひ)かれ、どんな態度に心奪われるのか。相手がどれぐらい自分に関心があるのかを見極め、入念に戦略を練り接近。そうしてようやく手に入れた束(つか)の間の幸福を、何度も噛(か)みしめ味わい尽くす。

 なんとも切ない。だが、どうにも可笑しい。この特有の妙味が、読み進むうちゆっくりと胸に沁(し)みてくる。犬への愛情と共に綴られる過ぎ去りし日の想(おも)い出が、読者の記憶の扉をも開いていく。その温(ぬく)もり、あの眼差(まなざ)し。手元に置けば心強い一冊となるはずだ。



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