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メディアに掲載された姫野カオルコ作品の書評を紹介(終業式/角川文庫)

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『終業式』角川文庫

●旅立ちの季節に(評者=落合早苗)

つい先日まで、袴姿に卒業証書を手にしていた女性をよく目にした。そんな彼女たちも、今日は慣れないスーツ姿とやや緊張した面持ちで入社式を迎えているのだろう。4月は社会人にとっては異動の、そして学生にとっては進学や就職のシーズン。別れと出会いが同時に訪れる季節である。

『終業式』(姫野カオルコ著/角川書店)は、20年にわたる友情を描いた作品。4人の登場人物を軸に、書簡の往来のみで展開されるストーリーである。初出は1996年4月、光文社から発行された単行本『ラブレター』。1999年3月新潮社より『終業式』と改題のうえ文庫化、その後2004年2月に角川文庫で再版されて、2007年10月に電子書籍として配信が開始された。

体育祭後、喫煙で学校から謹慎処分を受けた同級生の噂話から、物語ははじまる。授業の合間をぬって、1日のうちに何度も友達同士のあいだを行き来するメモは、やがて進学して別の道をたどりはじめたあと、手紙や葉書、あるいはFAXへと形を変えてゆく。時に新生活の報告がなされ、時に恋心を打ち明けられ、もっとあとになってからでは結婚生活の苦悩が綴られていく。かつて感情を剥き出しに書きなぐっていた少年少女たちの手紙は、年を経ていくにつれ、投函されずに破棄されるものが増えていく。そして書きかけの手紙と書き直した手紙との対比が、差出人の逡巡のあとを見せ、彼らの友情や愛情をより深く、よりやさしいものにしてくれている。

書簡形式のため、また「ケータイ」という現代のポピュラーな通信媒体を用いていることも手伝ってか、読み進めるほどに登場人物たちを自分の隣人のように身近に感じるようになる。彼らとともに自分自身の軌跡を振り返ると、長い歳月を経ても色あせることのない友情がいつのまにか育まれていたことに、それ自体が小さな奇跡なのかもしれない、とかけがえのないものに思えてくる。旅立ちの季節におすすめの一冊。

(2008年04月01日)


  ●なまもの!(評者=大矢博子

すべてが書簡で構成された物語。女子高校生二人の交換ノートから話は始まる。
どこにでもあるような、女の子どうしの交換ノート。友だちのうわさ話、教師の悪口、気になってる男の子の話、嫌いなクラスメートの悪口。
その合間合間に挿入される、他の人物の手紙やメモ。ラブレターや、出せない手紙。

そして彼女たちは高校を卒業し、大学へ進み、就職して、それぞれの場所で新たな出逢いを経験する。
それも全て、手紙やメモ、ファクスだけで構成されているのだ。
すべての(それもけっこうな数の)登場人物は、常にその人が書いた手紙で表現される。

高校時代から三十代までの二十年の年月を、手紙だけで綴った叙情詩である。
高校時代は、恥ずかしくも懐かしい。淡い恋心、カッコつけたラブレター。友だちにも言えない気持ちを、ラジオのDJに書き送る。バレンタインに忍ばせた手紙。

そんな恋や友情がどうなるかも、すべて手紙が物語ってくれる。
告白したのか、うまくいったのか、手紙に書かれていない事実は知りようがない。
読者に説明するための手紙ではなく、本当に相手に分かればいいだけの手紙だから、読者にはわからない「あのこと」「あのとき」などという言葉が頻出する。

しかし、少し後の手紙に、初めてのKISSが──などと書かれていて、読者は初めて「あ、この二人付き合い出したんだ!」と知るのである。
大学時代。就職。さまざまな出逢いと別れを繰り返し、個々に事件も経て、登場人物達はそれぞれの伴侶を見つける。そして……。

なんていうんだろうなあ、切ない、のだ。滲みる、のだ。登場人物たちが自分と同世代だというせいも勿論あるだろう。でもそれ以上に、ただ、4〜5人のメインの人物が書いた色々な手紙やファックスを並べるだけで、これだけの物語になってしまうという事実に圧倒される。

手紙の向こうに見える彼らの恋愛や出逢いや別れが、はっきりと書かれていないにも関わらず、手に取るように見えるのだ。説明的でない、本当に「私信」を並べた だけの物語。
それでも、それが個々の人物をはっきりと浮彫にし、読者を掴む。

これは、すごい作品だ。そして、心に滲みる、恥ずかしさや懐かしさや嬉しさなどがないまぜになった、切なくも暖かい傑作だ。そして最高のハッピーエンドが待 っている。読後感は最高! 三十代の女性、これは読まねばいけませんよ。

(01.12.28)
 
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