「人が人に対してやさしくなるためには、原稿用紙で600枚くらいの疾走が必要なのかもしれない。」
この文庫版『ツ、イ、ラ、ク』で姫野作品を初めて読む人が多いでしょうから、あえて内容の説明はしませんが、ご本人があとがきで述べているように本書は「恋愛小説というより、恋愛なるものの小説」です。そもそも冒頭のシーンからして古今の恋愛小説(と呼ばれているもの)と比較しても異質ですもの。はい、初めて読む人はここで「・・・???」な気分になります。新撰組とかでてくるし。でも、私、管理人が保証しますが安心して「・・・???」な気分のままで読み進めてください。気がつくとあなたは疾走する物語の只中にいるはずです。
この小説は「物語」ではなく「生の記憶」に近い形で私たちの脳にインプットされるのです。
一組の男女の恋愛を描くのに、姫野カオルコが取ったのは、町を学校をサロンを丸ごと捏造するという大掛かりな作戦でした。(解説より)